まぎかる゜火葬場

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感想『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』 もうクソザコピエロとは言わせない

ネット上のMAD動画の影響もあり一躍人気(?)を得た恐怖のピエロ・ペニーワイズ。

ちょうどリメイク作『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が公開されたタイミングだったという事もあり、リメイク前リメイク後含めた映画版を鑑賞した人達も少なくはないだろう。

かくいう俺もMAD動画の影響で作品の存在を知り、リメイク前とリメイク後の前編をレンタルして鑑賞したのは記憶に新しい。

今回鑑賞したのは「THE END」とあるように、リメイク後作品における完結編(後編)となる。前編がルーザーズクラブのメンバーの少年時代を描いた物だが、完結編の本作はその27年後、つまりメンバーが大人・ミドルになってからの物語だ。

 まず作品の鑑賞で大分精神を追いやられたのはその上映時間だ。

なんと、このリメイク完結編は3時間もある。前編が2時間あるのでリメイクの本作を楽しむには約5時間もの時間を明け渡さないといけない。

リメイク前が3時間の尺に収まっていた事も考えると中々思い切った上映時間だな…と思う。

作品自体が暗めのロケーションも多めで目も脳もエネルギーを使うので、中々疲れた…。

 

しかし、作品中に巣食う恐怖のピエロ・ペニーワイズは間違いなくリメイク前からあらゆる点でパワーアップしており、その映像表現も特筆に値すると言えるだろう。

MAD動画ではネタキャラ扱いされるペニーワイズだが、俺は3時間ただひたすら圧倒をされていた。

 

※リメイク前・リメイク後のネタバレを混じえつつ感想を記します

恐怖演出の進化

やはりリメイク前と比較するのであれば避けて通れないだろう。

リメイク前のペニーワイズは映像技術の制約もあるのか湿っぽくシュールな恐怖演出でルーザーズクラブと視聴者を怖がらせてきた。

対決シーンではペニーワイズ自身も直接戦闘を行うというよりは、とにかく恐怖演出(幻覚である)で精神的に追い詰める方向に舵を切っていた印象を受ける。

 

一方でリメイク後は(対象が大人という事もあるだろうが)直接的で暴力的な恐怖演出が多い印象であった。

その恐怖演出の数々が幻覚とわかっていても、あまりにも命を刈り取って来そうな勢いはまさしくルーザーズクラブのメンバーと同じ気持ちになってしまう。とにかく圧倒されてしまうだろう。

彼らの過去のトラウマを徹底的に食い物にし、とにかく陰湿で暴力的な幻覚を起こすのは深い嫌悪感も抱く。

 

リメイク前のペニーワイズは頑張れば俺でも倒せそう!と思う事はあるが、このペニーワイズはどうやっても勝てる気がしない…。小便漏らしちゃう…。

 

これは個人的な好みだけど、でも恐怖演出自体はリメイク前の方が好きではありますね。リメイク後のはひょうきんなピエロ感は薄まっており、モンスター性を強調してる感じ。

中華料理店のBGMをバックにおぞましい物体が乱舞するシーンは狂気が増していてリメイク前より好きだけども、図書館でのペニーワイズとの会話シーンの静かな狂気も好きだったのでここがカットされてしまったのは悲しい。

 

良い記憶も悪い記憶も忘れたくない

本作がリメイク前から決定的に描写が増え深堀りされていたのは間違いなく「記憶」「思い出」だろう。

物語の舞台となるデリーから離れるとデリーにいた頃の記憶は薄れるという設定のため*1、デリーに再集結したルーザーズクラブが徐々に記憶を取り戻していく構成となっている。

 

リメイク前は大人になり再集結したルーザーズクラブはとにかくペニーワイズの棲家に乗り込みヤツをぶっ倒そう!というテンポ感で物語が進行していた印象。

一方で本作はペニーワイズを倒すにはヤツの棲家で儀式を行う必要があり、その儀式には思い出の品を生贄に捧げる必要があるという。この思い出の品を集めるために各メンバーが縁のある地へ単独で赴き、そこで少年時代(27年前)の嫌な思い出が蘇っていく、という描写がとにかく3時間の尺でじっくり描かれていた。

 

最終的に儀式は失敗に終わりそれがペニーワイズを打倒するに当たって意味のない物だという事が判明。だが、良い記憶にも悪い記憶にも折り合いを付け(思い出の品を生贄にするのはそのメタファーだろうか)真の意味で成長し結託したルーザーズクラブには怖い物がなくなり、ペニーワイズの打倒に繋がるという構成はとても自然な流れに感じた。リメイク前からさらに説得力が増したといえるだろう。

最初はペニーワイズの起こす幻覚に怯え逃げようとしていた(=デリーから離れるので忘れる事ができる)登場人物がそのトラウマに最終的には立ち向かい、たとえ嫌な思い出だったとしても忘れない事を是とできるのは、ルーザーズ(敗北者)が集まり結束を固められた彼らだからこそと言えるかもしれない。

 

挑戦状を叩きつける程までに成長したペニーワイズ?

リメイク前で印象的だったのがペニーワイズはデリーに再集結したルーザーズクラブを幻覚で精神的に追い込もうとした動機が彼らをデリーから追い出すためだったという点。一度子供の彼らにボコボコにされてるので大人になった彼らを追い出しゆっくり獲物に手をつけたい気持ちはわかる。

 

一方でリメイク後である本作はなんと真逆だ。デリーでずっと生活していたルーザーズクラブの一人・マイクに対して血文字で再集結するように仕向けたり、いざルーザーズクラブと対面した際はむしろ歓迎ムードであったし、追い返すのではなく上述した通りここでメンバー全員を仕留めてやろうという殺意すら感じたのだ。

俺はリメイク前とのこの相違点に強い違和感を感じていた。そもそも彼らをデリーに再集結させないか追い出せばゆっくりデリーで他の獲物を仕留め続けられるのになぜあのような挑戦状を叩きつけるような言動だったのか。

 

これを解く鍵はやはりラストのペニーワイズが絶命するシーンだろうか。

ペニーワイズ自身の強さは相手を油断させるか恐怖に陥れ屈服させる点にある。逆に言えば恐怖に打ち勝てばペニーワイズは文字通り脆弱なピエロと化してしまうのだ(この対策がわかれば簡単に勝てそうなという点がクソザコピエロとか言われてしまうのだが…)

 

そしてこのペニーワイズが絶命するシーンでは恐怖に打ち勝ったルーザーズクラブのメンバー達を称えるペニーワイズのシーンを見る事ができる。

ひょっとすると目的としては一度自分を打ち負かした彼らの成長を見たかったのかもしれない。あわよくば彼らを喰う事で自分自身も27年前(ペニーワイズにとって嫌な記憶)と違う、成長した存在だと見せつけるために、彼らを呼び戻したのではないだろうか。

事実としてペニーワイズは台詞から自身がこの星で最強の存在である事を強く強調していた。

根本的にはペニーワイズもルーザーズクラブも同じ過去の嫌な思い出に立ち向かったと考える事ができるのかもしれなく、これは作品のテーマにも繋がるのであろう。

 

リメイク前から27年経ち作品的にも復活を果たしたペニーワイズ。

逃げるためにトラウマを掘り起こしてきた"それ"は、いつの間にか自らも過去の恐怖に打ち勝つため成長をし復活を果たした。

その進化した恐怖演出も合わさり、誰が彼(彼女か?)をクソザコピエロと貶める事ができようか。

(上手い事言ったつもりだけど、なんか上手くまとまってないような気がする締め)

 

 (3155字)

 


*1:デリーの外で連続殺人の事が広まらないようにペニーワイズが能力でそうしてると聞いた事がある。