まぎかる゜火葬場

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「2019年度JRRC企業・団体のための著作権中級講座」に行ってみた

ザックリ言ってしまえばだが「書籍や文献版のJASRAC」である公益社団法人日本複製権センターが主催する「2019年度JRRC企業・団体のための著作権中級講座」に行ってきました。

jrrc.or.jp

俺が参加したのは12月5日の東京開催分。講座名にある通り本来は「企業」「団体」向けの講座なので、あくまで個人として参加するつもりの俺は抽選受からないのかなーと思いきや普通に受かった。漏れてしまった人達にちょっと申し訳ない…。

 

著作権ね、うん著作権。普段俺をフォローしてる人達にはお馴染みかもしれないが、俺は著作権という分野が大好きである。生真面目な学問とか知識とか嫌々で勉強してた俺だが、そんな俺でも純粋に「おもしろい」とのめり込めたのが著作権

きっかけはブログでもTwitterでも何回か触れてる幻のカルトアニメ『星の子ポロン』(ここぞとばかりに布教)

この作品はいわゆる「権利者不明」の孤児著作物に当たる作品のため、作品やそれにまつわる権利関係を調べる意味で著作権というジャンルのドアから顔を覗かせていたのだが、見事足を掴まれてそのままズルズルと戻れなくなってしまった形だ。

 

そんなわけで独学でも著作権を勉強し、見事「ビジネス著作権検定 上級」とかに合格したり色々あった。この辺はその内振り返りたいね。

 

というわけで話を講座に戻すが、中々有意義な講座であったと思う。「中級」とある通り、これには初級もあったみたいなのだがそちらは本当に著作権に触れた事のない層向けで、今回の中級講座は著作権法にある程度理解が進んでる人達向け。

主に著作権法の勉強がある程度進んでいる方や、より詳しく知りたい方向けの講座。
著作権法を含む知的財産権制度を体系的に学び、著作権法についてより理解を深め、実務に役立てることを目的としています。立法等に携わった元行政官の立場から見た貴重な話を交えて解説いたします。

企業・団体のための著作権講座 | 公益社団法人日本複製権センター(JRRC) より

 

 とは言ってもわりと著作権法の基本的な部分を振り返る感じではあったので「ビジネス著作権検定 上級」に合格できるレベルぐらいであれば本当に復習をするような感覚ではあった。

だが、基本に立ち返るというのは大事。特に俺みたいに継ぎ接ぎにしかも一気に著作権の知識を頭に仕入れた場合は、わりとそれらが綺麗に固まっていなく、バラバラになっているのだ。

 今回の中級講座、教える内容は基本中の基本だったかもしれないが、間違いなく自分の中のピースを繋ぎ止めるには有意義な講座だったと思う。

 

さらに、その基本を改めて教えられる中で新たに気づいた点も存在する。

例えば、楽曲における作曲者と作詞者は著作権者に当たる。これは当然なのだが、その楽曲の歌手は著作隣接権を持つ実演家(伝達者)に当たるという点。いやこれも当然なのだが…。注目すべきは「カバー曲」の存在だ。

よく業界では「原曲は原曲」「カバー曲は原曲を元にした楽曲」というのが一般認識で原曲を歌っている歌手とカバー曲を歌っている歌手の立場も異なる物と考えられる事が恐らく多い。

しかしよく考えてみれば、まず存在するのは作曲者と作詞者による原曲という第一次ソース。伝達者となる歌手は第二次ソースとして原曲かカバー曲か関係なく同じく実演家という立場になるわけで、実は双方の立場にそこまでの差はないのではないかという考え方だ。

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その他にも講座では判例を元に「例えばこういうケースは実はこういう事になるよね」という解説が多く混じえられたのだが、講師の川瀬先生はしっかりと今や未来の著作権についても考えてるいるんだなぁと感じる事ができた。

例えば講座中に触れられたのは「AI」という題材である。著作権は通常自然人もしくは法人といった団体しか持てない物なので、当然人間以外の動物などが権利を持つ事は一切ないし、著作権法もあくまで人間の表現する思想や感情を前提にした作りになっている。

そこで問題となってくるのが将来的、いや、今でも進化をし続けている「AI」だ。近年ではAIが膨大なデータベースから画像や音楽を選択し、自動的に新たな著作物を創作するという行為が発生する(し得る)

そう、AIによって著作物が創作されるので、その著作権は誰に帰属するのか?という問題。当然、AIは自然人と認められないのでAIにも人間と同じように権利が与えられる未来が訪れないとAIが著作権者になるという事はない。で、あれば現行の著作権法では自然人などが著作権者になるはずなのではあるが、AIは特定の人間の思想と感情を通じて著作物を創作しないため、議論に上がる。果たして権利を持つのはAIを作った人間?それともAIに指示を与えた人間?謎は深まるばかりである。

 

基本を振り返りながら、こういった今の法では対応できない部分に対して、熱心に語られてるのが本講義の印象的な部分であった。

他にも俺が知らなかった部分も含め「これはこうだからこうなってたんだ!」と色々な事を講義で知る事ができた。

 

・一昔前までは一般人は著作権の知識はいらなかったが、今はネットなどでコンテンツの入手や発信が容易になった。そのため、著作権の正しい知識や理解がないと問題が指摘されやすい(例えばそういった問題をチェックする暇人マニアがいたり)

 

特許権著作権の違いの一つが、前者が「絶対的権利」で後者が「相対的権利」という点。一見すると意味がわからないが、著作権における相対的権利とはいわば「自身の著作物に対してだけの権利」。これがあるので、他人の著作物を模倣した事実がなく、たまたま表現がかぶっただけでは権利侵害にならない。

 

・本来図表やグラフは著作物になりえるが、簡単にそれを認めてしまうとそれに含まれるただのデータ(※ただの事実の羅列なので著作物ではない)を同時に保護するという事になり、データの独占に繋がってしまう。なので政策的判断として、それらは多くの場合「ありふれた表現」として著作物性を否定する事がある。

 

著作権法で保護される「純粋美術」と、意匠法で保護される「応用美術」の境目である「美術工芸品」の判断はどうすればいいのか?→Tシャツのデザインを例えばキャンバスに分離した時に単体の著作物として成立するなら著作権法の保護下でも良いのではないかという判例が存在する。

 

・会社名、職名があっても個人名が表示されている場合は法人著作となる要件を満たさないが、仮にタイトルや見出し下ではなく雑誌や新聞の記事内で担当者名が表記されていた場合は法人著作となるのかどうか?→判例がないので何とも言えない。ただ恐らく契約でそういうのは確実に法人著作になるようになってる可能性が高い。

 

・著作物として認められるであろう日記を勝手に他人に見せびらかすのは、プライバシーだけではなく、公表権の侵害になるので立派な犯罪になり得る。

一番「たしかに!!!!」ってなったw

 

・中古ゲームソフト事件でゲームソフトの頒布権は一定条件下で映画の著作物なのに消尽するようになったが、これはそもそも頒布権が映画の"フィルム"を想定して作られた物であるから。なので、この判決以降はフィルムではない中古映画ソフト(DVD等)もゲームソフトと同様に頒布権が消尽するという考えになっている。

(DVD等がゲームソフトと同様に中古で売られてるのはこれによって実現)

 

・私的複製行為は公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器で行うと第30条が適用されなくなるが、例外の例外としてコンビニ等に設置されているような文書や図画の複製機を用いる場合は適法。

 

俺が講義中に知って「はぇ~~~~~~~」「そうだよね!!!」と特になったのはこの辺。よく見れば基本中の基本なんだけど、法を知っただけでは中々たどり着けない考えに至る事ができたわけだ。そういう意味で、非常に有意義だった。

 

 

長時間の講座の後は質問タイム。ここで俺が前々から気になっていた質問をする事ができた。

「法人が解散してしまった場合に著作者人格権は消滅するが、その後にその法人の人格的保護は自然人と同様にされるのかどうか」という質問だ。

これの川瀬さんからの回答は「法人に人格はないので実質的に人格的利益の保護はなくなるが、それとは別に罰金という形で非親告罪の保護がある」との事。

後で調べてたらWikipediaにも普通に書いてあったわこれ…。「第120条により500万円以下の罰金に処される」だそうだ。

この質問は孤児著作物である『星の子ポロン』の権利保有会社はとっくの昔に閉鎖してるため、『星の子ポロン』はパブリックドメインになってる可能性があるが、パブリックドメインでも著作者人格権の侵害はしてはならないのでどうなるか?と気になったのがきっかけである。

となると、仮に1974年に放送された本作が70年の保護期間を終え、2044年パブリックドメインになったとしても利用の方法はよく考えないといけないのかもしれない。

 

アレコレして講座は終了。改めて著作権はおもしろいな、と再認識できて良かった。

企業・団体のための講座とは言うが、正直今となっては一般人にも知って欲しい物ばかりであったので、興味のある方は2020/01/30(木)に大阪で開催される中級講座に行ってみてはいかがだろうか。

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おまけ

 会場の近くのカレー屋で昼ごはんを食べてきた。値段の割には量があまりなかったのがちょっと残念。味はまぁまぁ。

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